沈没
【沈没】…長期旅行者が宿に引き籠る状態を言う。理由としては、居心地が良すぎる、移動が億劫になる、お金が尽きて動けなくなる、などが挙げられる。期間は1週間〜2か月と人により異なる。
「俺、インドで二ヶ月沈没したわー」など、若い旅行者からよく聞きます。
へぇぇ、そんなことあるんやねー、もったいないなぁ、うちらは二人いるからないねぇと話していたのですが。
私たちはこの旅始まって以来初めて、この「沈没」をモロッコにて経験しました。
ロンドンからモロッコにやって来ました。
客引きもおらず、値下げ交渉する必要もなく、旅行者に寛容というか、無関心なヨーロッパ。それに対して辿り着いたのは、「インド、エジプトに並んで三大うざい国」と称される国、モロッコ。中でも騒がしい商人の町マラケシュ。
着いて早々、やはり客引きが「ジャパニーズ?ナカタ、ナカムラ、タカハラ、サムライ!」と近寄ってくるのがとてもうるさくて。
どこでも割と簡単に馴染んでしまうタイプなのですが、パタリと、静かに、心を閉じてしまいました。
パタリと。
それから不毛の一週間。
一日目、長時間移動の疲れで寝続ける。
二日目、朝目覚めたら昼過ぎで、動けず。ご飯は近くの屋台でチキンタジン鍋を食べる。
三日目、またもや昼過ぎ起床。タジン鍋でお腹を満たし、帰りに「スーク」と呼ばれる迷路のような商店街へ向かう。が、入口近くが強烈な臭いで断念。なんの臭いだったのだろう。生臭くて、腐卵臭のような。宿に退散。
四日目、インターネットと映画とタジン鍋。
五日目、インターネットと読書とクスクス。
クスクスがいまいち美味しくなくて、明日はタジン鍋にしようと固く決意。それ以外記憶があまりない。
六日目、近くのエッサウィラという港町に日帰りで足を伸ばそうと、がんばって起きて朝一にバス停に行ったが、バスチケットが売り切れており乗れず。宿に退散。今日もタジン鍋。タジン鍋は裏切りません。
せっかく動けたから、二度目のスークに挑戦。
今日はこの前みたいに臭くないぞ。
そうだ、モロッコ雑貨ってかわいいんだった。
ミントティーも結構おいしいじゃん!
元気が出て来たので、明日はもう荷物をまとめてマラケシュを出ようと早めに就寝。
七日目、朝、6時半起床。移動日だ!
私:「おはよう!急いでチェックアウトの準備しよう!」
マコト:「おはよう。ねぇねぇ、なんか言うことない?」
私:「え?」
私(心の声):【低血圧で、頭が全く働いていない私に、朝っぱらからこ奴は、何を言えというのか!?】
一応考えるフリ。
ぼー。
しばしの沈黙。
あぁぁぁ!
「た、誕生日おめでとう!!!」
11月25日、マコトさん31歳の誕生日。
ごめん!ほんっとうに忘れていた!(完全に目覚める)
11月19日のチホの誕生日も、23日のマイコの誕生日も覚えていて、おめでとうメールを友達には送っていたのに、
横にいる、愛すべき、旦那様の誕生日がすっかり抜け落ちていた!!!
ごめん!もちろん何も準備していないし、今日は8時間のバス移動やし、何もできまっしぇーん!
「ハッピーバースデーの歌うたう?」
・・・無言・・・
結婚まだ2年目。正確には1年と8カ月。
我ながらひどい妻である。
マコトさん、次の日まで、すねてたよね〜。
Now Playing:久石穣「人生のメリーゴーランド」